年会長挨拶

夏の青空がまぶしい頃、第50回という記念すべき日本毒性学会学術年会をパシフィコ横浜において、2023年6月19日(月) 〜 6月21日(水)の3日間に亘り、開催いたします。

年会のテーマを「毒性学ってナンだ? — そしてその先へ —」としました。

私事で恐縮ですが、子どもの頃から、いわゆる毒性に関することが好きでした。ところが困ったことに、なぜ好きなのか、ずっとよくわからなかったわけです。大学・大学院と獣医薬理学にて研鑽するのですが、就職して10年ほど経った頃、その興味は、毒性学の特徴である「網羅性」なのではないかと諸先輩方からご教示をいただき、ようやく合点がいったのでした。すなわち、様々なレベルやステージにおいて、虚心坦懐になって見逃すことなく隈なく検索することこそが、この興味の本質だったわけです。作業仮説の延長にはない発見も見込めると思います。

興味の本質が明確になってからは、様々な化学物質の性質や体の仕組みを、よりいっそう理解することに努める決意を新たにし、適した遺伝子改変マウス作製を含む、様々な生体反応を検出する新しい評価系開発に勤しむこととなり、現在に至ります。

一方で毒性学の進歩は、私には、生命科学のパラダイムシフトともいえる進展を貪欲に吸収している姿としてもみえていました。具体的には「定性→定量」(無毒性量やリスク評価等)、「相関関係→因果関係」(遺伝子改変動物の利用、トキシコゲノミクスやシステム毒性学等)あるいは「一般則を帰納的に推論→ゲノムを基にシステム全体を演繹的に推論(エピジェネティクス等)」といったことです。加えて、ヒトと社会に役立つように、もっとも望ましい姿に調整する「レギュラトリーサイエンス」とも直結しています。人工知能技術導入にも積極的で、ナノマテリアルなど新素材に係る毒性評価にもすばやく取り組み、分子生物学の導入による「機能学と形態学との垣根越え」もいち早く経験したようにおもえております。こんなに先進的で興味深い学問を、私は他に知りません。

日頃ご多忙な中、50回の本学術年会を機に、皆様にとりましても、毒性学についてあらためて考える機会となりますように、また次世代を担う方々に毒性学の面白さを味わってもらいたいという願いを込めて、本年会のテーマを設定しております。併せて、これまでのレガシーを振り返りつつも、変わるものと変わらないものを見極め、革新し続けることの大切さも謳っているつもりです。なお毒性学は、化学物質の有害影響に関する学問と定義されることが多いのですが、では有害影響と判定されなかった生体影響は、誰が面倒をみてくれるのでしょう。やはり毒性学者しかいないのではないのかな、と個人的に思うわけです。

日本毒性学会は、ふたつの源流、すなわち獣医系大学及び製薬企業の専門家を中心とした毒性研究会と、医薬系を中心とした日本毒作用研究会から成ります(学会HP: 学会概要/沿革参照)。この意をポスターデザインに込めています。個人的には、あたかもヨーロッパ型とアメリカ型との毒性学会が国内に現れ、そして巧く合流したかのように思えており、結果として、世界に誇れる日本型の毒性学会となっているように思え、先人たちのご苦労とお知恵に敬服しております。なお第1回日本毒作用研究会(1975年)が、第1回目の当学術年会となります。50回の記念行事のひとつとして、この初期の要旨集のPDF化を発案しております。

本年会では従来のものを踏襲しつつ、今後の毒性学の進展に向け、基礎科学を含め学際的な教育講演やシンポジウムも多数用意いたしました。

永きにわたり、これまで学術年会を支えてこられた諸先輩方や関係者のみなさまに感謝しつつ、コロナ禍に鑑み多彩な研究発表を毎年できることのありがたさに加え、未来の年会像に対する期待や願いを込め、皆様とともに50回を寿ぎたいと存じます。記念すべき当学術年会を、威風堂々と迎え、味わい、そして楽しみましょう。皆様の積極的な御参加をお待ちしております。

第50回日本毒性学会学術年会
年会長 北嶋 聡
国立医薬品食品衛生研究所
安全性生物試験研究センター 毒性部 部長

北嶋 聡

◇なお記念の意を込め、みなさまにお届けする封筒色は、花緑青(アセト亜ヒ酸銅)色を意識した色を選びました。

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